TVアニメ『天官賜福』第1話解説


画像は『天官賜福』日本語版公式サイトより引用

2021年7月より、中国アニメ『天官賜福』の日本語吹き替え版が日本で放送開始しました。

『天官賜福』日本語版公式サイト

『天官賜福』は墨香銅臭さん原作のネット小説で、中国ではアニメの他に実写ドラマも作られている人気作です。

日本ではこれっぽっちも話題になっていないけれど、道教的な世界観を持つ作品なので、このブログでも取り上げてみようと思います。

『天官賜福』1話あらすじ

天界に「飛翔」してきた美青年。

非常に大きな力を持つらしく、天界の人々は驚きます。

モブのセリフに「数十年まえ仙楽国の太子が天に昇った時をおもいだす」。

果たし飛翔してきたのは「太子殿下」と呼ばれる人物。

あまりにも大きな力のために周囲に被害を及ぼしたせいで「最も地上に追放したい神官」に選ばれてしまいます。

どうやらこの太子殿下、すでに2度の追放を受けており、天界に飛翔してきたのは3度めらしい。

そのせいで法力を失って法器を扱えないとのこと。

天界に飛翔してきたばかりなのに、天界に与えた被害を弁償するため、地上で起きているたたりを鎮めにいくことになりました。

そのたたりとは、與君山なる山に「鬼花婿」が現れ、花嫁をさらうというもの。

なんやかんやあって太子は、天界から手伝いに来た南風、扶揺とともに自らが花嫁に扮して鬼花婿をおびき出す作戦に出ます。

與君山に乗り込んだ太子の前に突然出現したゾンビィ「鄙奴」。

南風、扶揺がゾンビィを引き離すために太子から離れたところに現れる鬼花婿。

輿に差し出される右手の中指には赤い糸。

そこに去来する太子の過去。

太子は中原にあった仙楽という国の太子「謝憐」で、その才能は天帝が感嘆するほど。

そして1度めの飛翔をするものの、窮地に陥った仙楽国を救いに行ったために地上に追放されたという事情が説明されます。

1話の時点では2度めの飛翔と追放に触れられることはなくイケメンの鬼花婿に連れ去られていきました。

『天官賜福』の舞台背景

『天官賜福』は現実ではない架空の中国が舞台になっています。

原作によれば、仙楽国があったのは800年前。現実準拠で800年前だと南宋のころになるけれど、作中の800年後の地上世界は現代ではないため、いつの時代かはわかりません。

800年後の人々はみんな前開き服を着ているので明代以前でしょう。チャイナ服でイメージするひもボタンの服は胡服といい、清代に広まった女真族の風俗です。それ以前の中国人は前開き服を着ていました。「和服」が前開き服なのも奈良時代のころに唐の服装を真似したからです。

仮に本筋の時代が明代だとすれば、仙楽国があったのは現実では唐代ぐらいだと想定されます。

さて、太子「謝憐」については1話ではさらっと過去に触れられるだけ。

でも原作1話ではわりと細かく描かれています。

まず、仙楽国は広い領土を持ち物に恵まれ、穏やかな気質の民を持つ国。つまり現実の中国にはありえない理想郷です。

しかし謝憐は権力にも冨貴にも興味がなく、民を守ることを心がけ一心に修行に明け暮れます。

そして上元の祭りのときに城の楼閣から落ちてきた子供を助けました。この子供がどうやら鬼花婿と関係があるような描写がありましたね。

黄河の南にかかる一念橋に巣食い人間を食らっていた鬼魂を討伐したとき、その傍らで道士の姿をして戦いを見ていた神武大帝君にその才能を認められました。どうやら作中で「帝君」「天帝」と言われていたのはこの神武大帝君のことらしい。

そしてその後飛翔し、仙人になっています。

まだ原作の冒頭だけしかチェックしていないのではっきりしないのだけれど、この神武大帝君を天帝にするのは誤訳なんじゃないかと思いますね。

いや、読んだ範囲だと玄真将軍やら南陽真人やら現実の道教にはない架空の神仙もでてくるので、この作品の中では神武大帝が天帝ということになっているのかもしれないですが、そのへんは追々原作を読んでチェックしてみようと思います。

とりあえず現実の道教だと「帝」が付く神様は関聖帝君、玄天上帝、そして番組タイトル『天官賜福』に非常に関連性が強い紫微大帝など複数います。だから神武大帝だからといって天帝とは限りません。

『天官賜福』の用語解説

次に、知っていたほうがより物語を楽しめる用語解説などを。一部シーン解説も含みます。

天官賜福

まずは「天官賜福」。

これは道教廟でよく目にする言葉です。


天官賜福:台北松山慈祐宮

意味はそのまんま天官から福を賜る。

この天官とは三官大帝の一柱「上元一品九炁天官賜福曜靈元陽大帝紫微帝君」のこと。

三官は上元天官紫微大帝、中元地官清虚大帝、下元水官洞陰大帝の三柱の神様で、それぞれ天地水を司ります。


三官大帝:新北市板橋慈恵宮

天官大帝の誕生日は農暦1月15日の上元節、地官大帝の誕生日は農暦7月15日、水官大帝の誕生日は農暦10月15日、この3つの誕生日のお祭りを三元節と言います。

天官大帝の属性は賜福、地官大帝の属性は赦罪、水官大帝の属性は解厄。

三元節にはそれぞれ福が与えられ、罪が許され、厄が解かれることになっています。

農暦7月15日に地官大帝によって地獄の亡者が許され、地上に出てくるのが中元説です。日本ではお中元という名前だけパクった元ネタとは何一つ関係ない風習になっています。

謝憐が子供を助けた上元の祭り、つまり天官大帝の誕生日上元節は、福が与えられる日。年明け後最初に満月になる元宵節としても祝われます。

飛翔

飛翔はこの作品では単に空を飛ぶことではなく、羽化登仙を意味します。

実際原作にも飛翔を羽化登仙と書いている部分があります。

この意味がわからないと太子が飛翔したのをただ空を飛んで天に来たと勘違いしてしまうかもしれません。

羽化登仙は、仙薬を飲むとか内丹法を修行するなどして世俗の体から羽化、つまり生まれ変わり、仙人となって天界に登ることです。

功徳

功徳は本来仏教用語です。仏教では涅槃という果を得るためによい因を積み重ねることを指します。

この作品では、地上の信徒の信仰が神官の法力となり、一本の線香と祈りが功徳と呼ばれると説明されています。

謝憐が地上に派遣されたのは、天界の施設を破壊した弁償のため功徳を集めるためです。

法器

原作では法宝。

神仙が使うアイテムのことです。『封神演義』でも法宝と呼ばれています。

法器という言い方もするので法器でも間違ってはいません。

安能版『封神演義』では宝貝。『西遊記』に法宝を宝貝とする部分があるのでそこから持ってきたものと思われます。

ちなみに現代中国語で宝貝といえば、大切な宝物、とりわけ赤ちゃんのことを指します。

鄙奴

鄙奴は元は人で、顔はあるけれどはっきりとは見えず、手足はあるけれど無力でまっすぐ進み、牙があるけれど噛まれても死なないという妖怪。

鄙奴だけならたいしたことはないけれど、妖魔とともに出てくることが多く、ねばねばした体液で人をからみとってしまうやっかいな存在のようです。

アニメでの見た目はまさにゾンビィ。だけど噛まれても鄙奴になるわけではないのがゾンビィと違うところです。

元ネタがあるかと調べたところ、この作品オリジナルの妖怪のようでした。

日本のオニは「おぬ」つまり存在しないものを指す言葉だったといいます。それが、鬼門にあたる丑寅からの発想で牛の角と虎の腰巻きを付けたビジュアルに描かれ、だんだん本来の意味を失ってなんだか強そうな妖怪のイメージになりました。

私は日本の青鬼赤鬼は、天上聖母に仕える千里眼将軍、順風耳将軍をパクったものだと思っています。



千里眼将軍(上)順風耳将軍(下):ともに台北市啟天宮

それはさておき、中国語の「鬼」は死後の霊魂を意味します。また、万物の精霊という意味もあります。

いずれにしても実体がないものを指す言葉です。

ちなみに日本鬼子はただの蔑称なので、中国人に言われたら「闭嘴你这个畜生!」と言い返してやりましょう。

紅線

花嫁をさらいに来るという鬼花婿。原作では鬼新郎と呼ばれています。

差し出した手には赤い糸が結かれていました。

その元ネタは、小説から道教に取り入れられた神・月下老人にあります。

月下老人は赤い糸を引っ張って縁を結びつけると言われています。


月下老人:台北市神農宮

それが日本に伝わって例によってその上澄みだけ適当にすくった結果、小指が赤い糸で結ばれたどうしが結婚するという話になりました。

さて、鬼新郎は自分と赤い糸がつながっている相手を探して花嫁をさらっているのでしょうか?

外国の物語はその根底にある文化を知らないと楽しめない

日本人って、外国人が日本の文化を曲解していたり間違っていたりすると発狂しますよね。

でも、逆に外国の文化のうわっつらを適当にすくっててきとうにいじくり回して原型が失われたものにするのは平気です。

まあこの客観性のなさが日本人の民族性だと言われればそうなのでしょう。

『西遊記』然り『封神演義』然り。元の文化を理解しないままでいじくり回すから、カッパの沙和尚とか宇宙人の女媧なんてバカなものができあがる。

この『天官賜福』も、根底にある道教文化を知らなければなにがなんやら理解できないと思います。

ということで、以後の話数でも道教文化から来ているものがあれば解説していこうと思います。