道教の芸術:龍の装飾

本日2月10日は農暦1月1日。春節の初一です。今日より1年間の干支は甲辰。十二生肖は龍です。

甲は十干の初めです。『五行大義』にはこうあります。

甲者押也 春則開也 冬則闔也

甲は押である。春が開かれ、冬が閉じる。

甲は五行では木行の陽気で春は木行ですから、陽気で冬の陰気を押しやり、春の扉を押し開く働きを象徴します。

一方辰は、同じく『五行大義』にこう記されます。

辰名執徐 執蟄也 徐舒也 言伏蟄之物皆散舒而出也

辰は執徐と名付く。執は蟄、徐は舒である。隠れ伏せていたものがみな開かれて出ていくことである。

蟄は生き物が冬の間に土や穴の中に隠れ潜む様。二十四節気の啓蟄は蟄が開かれて生き物が出てくることを表します。舒は伸びるとか展開するということ。

合わせると甲辰年は、それまで逼塞していたものが表に出てきて、何かが始まる年だと言えそうです。出てくるものがいいものか悪いものかは知りませんが。

日本人がなんも考えなしに「えと」と呼ぶ十二生肖は、今年は龍となります。十二生肖を「えと」と呼ぶのがどれだけ頭が悪いことかは↓に書いてあります。

龍についてはこれまでいくつかの考察をしてきました。

なので、龍年の初日である今日は、視点を変えて道教の廟における龍の装飾をあれこれ紹介していこうと思います。

龍柱

道教の廟では龍の装飾は至る所に見られます。その中でも特に目立つのが、龍の彫刻が施された柱「龍柱」です。

これは正しくは「蟠龍柱」と呼ぶようです。蟠龍とはまだ天に昇る前の段階の龍のことで、爪が3本か4本しかありません。というのも、5本爪の完全な龍は、皇帝しか使えない意匠だったからです。

ここではめんどくさいから「龍柱」と呼びます。

龍柱は時代が下るにつれ、細め→太め、簡素→複雑という変遷をたどります。比較的新しい廟の龍柱は非常に精緻で、龍だけではなく鳳凰や天人などさまざまなデザインが取り入れられています。

とはいえ、龍柱は全ての廟にあるというわけではないです。そこらへんは予算の問題でしょう。


高雄市城邑慈済宮


台中市台中順天宮輔順将軍廟


坂戸市聖天宮


台北市法主公廟


台北市景福宮

香炉

近年台湾では行天宮や龍山寺など参拝客が多い寺廟が香炉を廃止するケースが増えてきました。台北では特に空気汚染が問題になっており、その主因は当然排気ガスではあるのだけれど、寺廟から出る線香の煙も一因となっていることから、環境保全のために香炉をなくす判断に至ったようです。

とはいえ、参拝客が多い廟、歴史が長い廟を「香火鼎盛」と形容するように、伝統的には参拝と線香は切っても切れません。廟内のあちこちに付着する煤やタールはそれだけ信仰が集まったことを表し、それを掃除してしまうと神威が下がってしまうと言われるほどです。

そのため、香炉を廃止した廟は台北市内でもごく一部で、その他ほとんどの廟ではまだ線香を捧げる伝統が続いています。

そうした道教廟の香炉にも、龍の意匠が多く見られます。


台北市指南宮


台北市大龍峒保安宮


彰化県彰化元清観


新竹市新竹関帝廟


新宿区東京媽祖廟

御路石(石段の中央の石彫)

わりと大きめの廟に行くと正殿の前に左右に別れた石段があり、その中央に龍の石彫が置かれています。

これは皇帝の宮殿を模したものです。宮殿では中央の石彫部分は皇帝しか通ることができません。といっても、皇帝が彫刻がほどこされたいかにも登りにくそうな部分を歩いていくということではなく、皇帝を乗せた輿を石彫の上を通るように左右でかついで運ぶわけです。

皇帝しか通れないその石段中央の石彫部分を「御路」と呼びます。宮殿ではない道教廟であっても、やはりそれに倣ってその部分を「御路」と呼ぶようです。

廟の場合は皇帝が来た時のことを想定しているわけではなくて、おそらくは神様の通り道ということでしょう。日本の神社の石段も、そのような石彫はないものの真ん中は神様の通り道ということになっています。ある年の終戦の日に某県の護国神社に行ったら右翼のチンピラが石段の真ん中を通っていて、やっぱりこいつらはかっこだけのやつらだなと思いました。

宮殿の場合は龍は皇帝を象徴します。しかし古代中国では龍は神様の乗り物でしたので、廟においては神様を乗せて運ぶ役割としての龍の石彫かもしれません。


台北台北東隆宮


台北市松山奉天宮


高雄市城邑慈済宮


新北市先嗇宮

屋根の上

道教の廟の中で最も多くの龍が見られるのは屋根です。

正脊・西施脊

屋根の一番てっぺんの部分。日本家屋ではこれを「大棟(おおむね)」と呼ぶそうですが、中国語では「正脊」と呼びます。

正脊に龍の彫刻が置かれる場合、中央の珠に対して二頭の龍が向かい合う「雙龍護珠」の構図になっているのが一般的。雙龍護珠は二頭の龍が宝物を意味する珠を両側から護っているという意味です。しかし逆に「雙龍搶珠」龍が珠を奪い合っているという解釈もあるようです。


台北市萬華金義殿

またこのように正脊の上に乗った彫刻を施こした部分を西施脊といいます。


新北市宏徳宮孫臏廟

もう一つよく見られるのが、珠のかわりに宝塔に向き合う「雙龍護塔」もしくは「雙龍拜塔」の構図です。


台北市艋舺青山宮


台北市大龍峒保安宮

他に中央に福禄寿の三柱の神が置かれたものもよく見られます。


淡水清水巖


松山慈祐宮

戧脊・角脊

正脊の両端から下に向かって伸びているのを垂脊、垂脊の延長線上に外に向かって伸びている部分を、二重構造の屋根の下段の戧脊にあたる部分を角脊と呼ぶそうです。と言葉で説明してもよくわからないので実物を見せるとこんな感じ。


台北市關渡宮

戧脊や角脊にもよく龍が乗っけられています。


台北市士林神農宮


台北市景福宮

壁堵

石彫で構成された石造りの壁を壁堵といいます。壁堵の石彫には様々な題材が用いられ、龍もよく見られる題材の一つです。


新北市先嗇宮


台北市大龍峒覚修宮


桃園市誠聖宮

龍はここに紹介した部分だけにとどまらず廟内の至る所に見られます。もし道教廟に行くことがあったらいろんな龍を探してみてください。

道教の芸術

Posted by 森 玄通