擲筊・跋杯

2022年5月23日現在、台湾中西部では大規模な宗教イベント「白沙屯媽祖進香」が行われています。これは、台湾中部の苗栗県にある媽祖廟・白沙屯拱天宮を起点とし、雲林県の北港朝天宮を折り返し点に8日間かけて行われる巡礼の旅です。非常に歴史がある行事で、苗栗県の文化資産、台湾の国家重要無形文化活動資産に指定されています。

拱天宮の媽祖像が神轎に乗せられて遶境、つまり巡察を行い、その後ろを信徒がついて歩きます。今年は武漢肺炎の感染が拡大する中、ワクチン3回接種をした人のみが参加を許されるという状況にもかかわらず、史上最多の9万人の参加者が直線距離にしてもおよそ260kmという長い道のりを行列します。

台湾には他にもいくつか重要な媽祖遶境のイベントがあります。しかしそれらと比べてこの白沙屯媽祖進香が特殊なのは、出発日時とルートが決まっていないことです。

出発日時はまず昨年のうちに白沙屯拱天宮の道士が神意を諮って決め、ルートは遶境の最中に媽祖によって示されるといいます。

出発日時を決めるために行われるのが「擲筊」です。

台湾道教の重要な儀式「擲筊」

擲筊は跋杯とも書かれ、中国語ではzhí jiǎo、台湾語ではpua̍h-pueと読みます。音が乏しい日本語の仮名表記では正しい音は表記できないので書きませんが読めなくても知ったこっちゃありません。

台湾では中国語で発音されることはまずなく、台湾語で発音されるため、清代に福建からの移民が台湾に移植した文化であることがうかがわれます。

擲筊は筊杯という道具を使って行われます。台湾の廟に行けば、まず筊杯を見ないことはありません。

龍山寺のような参拝者が多い廟ならば、筊杯を使って擲筊を行う様子を見ることもあるはずです。

筊杯は、半月型で片面が平ら、片面が山なりになっているものが2つ組み合わさっています。

神意を諮るときは、神様に向かって「これこれこういうことでいかがでしょうか?」とお伺いを立ててから?杯を投げます。

このように、平らな面と山なりの面が一つずつ出たものを「聖筊」といい、神様がそのお伺いについて許諾したことを意味します。

このようにどちらも山なりの面が出たものは「陰筊」「無筊」もしくは、「怒筊」といいます。お伺いに対して神様がそれ無効と示している、甚だしくはお怒りになっていることを意味します。

逆にどちらも平らな面が出たものは「笑筊」と言って、お伺いに対して神様が笑っている、もしくは、いやそれよくわからんわと言っていることを意味します。

怒筊が出た場合はお伺いそのものを別のものにしなければならないのに対し、笑筊が出た場合はもう一度お伺いをより詰めて再びお願いすることができます。

特殊な現れとして「立筊」があります。筊杯の湾曲した面でうまく立ってしまった状態です。しかしこれはめったに出ることがないものなので、どう解釈するかは道士によってまちまちのようです。結果に関係なく出たらすごいねみたいなものでしょう。

おみくじで用いられる擲筊

擲筊は一般信徒も自由に行うことができます。おみくじを引く時です。

まず筊杯を持って手を合わせ、その廟の神様に心の中で自分の姓名、生年月日、住所を告げ、お伺いを立てたいことの内容を思い浮かべてから擲筊を行います。

聖筊が出ればおみくじを引けますが、三度筊杯を投げても聖筊が出なかったら日を改めねばなりません。

聖筊が出たら備え付けてある筮竹を引き、それが正しいかどうかを伺うために神様を拝してから再び擲筊を行います。

三回続けて聖筊が出たらそれが正しいことを示すので、ひいた筮竹の番号のおみくじを取ります。三回連続の聖筊は非常に確率が低くなりますから、正しいおみくじを引くのは大変です。

台湾の廟へ行けば、三回連続で聖筊が出るまでなんども筮竹を引いては何度も頭を下げている人を見ることがあります。

また、おみくじは漢詩で書かれているので、龍山寺など大きな廟にはその内容を平易に解説してくれる職員もいます。

日本ではおみくじは非常に軽いものです。100円程度払って引き、よい結果が出れば持って帰り、悪い結果なら境内の木やら用意されているひもやらに結びつけてなかったことにします。

日本人は宗教に対してと同様に占いに対しても非常にいいかげんです。占いを信じるかどうかという問いに「いい結果だけ信じる」と答える人を多数みました。まあ占いの信憑性はともかく、自分の都合のいいことしか受け入れないという人間は信用したくないものです。

一方台湾人の多くは占いに対してもっと真摯です。占いとは今後の先行きを示すものですから、良い結果が出ればそれに沿うように行動し、悪い結果が出れば見を慎むのが正しい占いの受け入れ方です。

特に街の占い師ではなく廟でひくおみくじは神意を諮るものです。何度も擲筊を行った結果示されるのは神様のお告げと同等。ですからおみくじは台湾では非常に重いものになります。悪い結果が出たら信じないといういいかげんな態度では意味がありません。

このように擲筊は台湾道教においては非常に重要な位置を占める儀式となります。

また、シンガポールやマレーシアなどの華人社会でも擲筊が行われることもあるようです。