道教の設定ではだいたい全員地獄送り

子供の頃に初めて上野の国立博物館に連れて行ってもらった時、トラウマとも言える強烈な印象を受けたのが展示されていた地獄絵図です。
子供心にも禍々しく見える地獄の様子を描いたビジュアルに、悪いことをすると地獄に行ってこんな目にあうんだと脅してきた父の言葉も加わって心に残ったのだと思います。
こういう現実には存在しない対象への恐れ、畏れは、頭が育ちきっていない子供には理で諭すよりもはるかに強い抑止力になるのではないかと思います。
勧善は道教が信徒に求める戒めの一つであり、仏教経由で道教に取り入れられた地獄の設定も勧善の教えに利用されました。
しかし、道教の地獄の設定を見ていくと、これ逃れられる人間など存在しないのでは?と思わせられます。
道教の十八層地獄
道教の信仰は古代から中国にあった土着の民間信仰や神仙道などをベースに、老荘思想、方士の術などを取り入れて形成されていきました。
一方、仏教が中国に伝来したのは、伝説では東漢の明帝の頃。つまり紀元一世紀のころです。ただ『魏書』釋老志に
哀帝元壽元年 博士弟子秦景憲 受大月氏王使伊存 口授浮屠經
哀帝の元寿元年、五経の博士の弟子・秦景憲が大月氏王の使者・伊存から浮屠の経典を口授された
とあります。浮屠は「ブッダ」の当て字。浮図としてある文献もあります。元寿元年は紀元前2年なので明帝の伝説よりさらに早く仏教が伝来していた可能性も示唆されます。ちなみに『魏書』は北魏の正史で、『三国志』の魏書ではありません。日本のサイトでこれを混同して『三国志』に記述があるとしていたものがあったので一応指摘しておきます。
いずれにせよ、中国に仏教が伝わったのは道教が成立するより前にはなりますが、普及していくのは訳経僧・竺法護らが活躍した晋代、つまり道教の形成期でした。
道教は様々な要素をよく言えば取り入れ、悪く言えばパクりまくって作られていきます。当時中国で広まりだした仏教もまた、道教の形成に強い影響を与えました。
中でも特に影響を受けているのが地獄の概念です。生前罪を犯した魂は地獄道に転生して罰を受け、罪を償ってから別の生に転生する。この仏教の設定をベースに道教なりの地獄の設定が考えられました。
道教における地獄の設定は時代によって、あるいは宗派によっていろいろあります。中でも現在主流となっているのが、地獄の裁判官チーム「十王」によって管轄される十八層地獄です。
もともと仏教によって中国に伝えられたのは十八地獄です。仏教では地獄では六道輪廻の一つであり、罪を持った人は地獄に転生して責め苦を受けます。仏教の場合地獄は一つの世界であって、そこに18種類の地獄の責め苦がある設定です。
一方、道教では地獄は死者の世界である地府の中にあり、生前罪があった者だけが放り込まれる監獄です。そのためか、18種類ある地獄は、18層の階層という設定に再構築されました。インペルダウンもこの階層化された地獄が元ネタになっていると思われます。
罪別十八層地獄の行き先
死んで地府に送られた魂は、まず十殿閻羅の第一殿で秦廣王の裁きを受け、罪があった者は生前に犯した罪に応じた地獄に送られることになります。なお第一殿はもともとは閻魔王の管轄だったけれど、閻魔王が優しくてつい罪を減じてしまうので、第五殿にまわされたなんでいう設定もあります。
ここでは、台湾の彰化県にある南天宮の地獄めぐりを参考に紹介していきます。
国によって若干の設定違いがあることもあるので、中国ではまた別の設定になっている可能性もあります。
まずは第一殿秦廣王。秦廣王は死者の裁判をするのみで、地獄は担当していません。

1.婦道、つまり女性として守るべきありかたを守らなかった者
2.貨幣を偽造した者
3.私利のために武器をもって闘争を行った者
は各地獄で永遠に責め苦を受けてそこから這い登ることは許されないと書いてあります。貨幣の偽造や私利私欲で殺し合いをするようなやつは別に永遠に苦しめられてもいいと思います。
婦道っていうのは儒教が求めるような、一歩引いて男性を立て、子を産む機械と家の奴隷に徹しろみたいなことです。まあ現代社会では到底受け入れられないバカな女性差別に基づいた罪でして、このように道教には孔丘が考えたアホな思想も入り込んでいます。
以後、儒教に基づいた罪もいろいろ出てくるので、怒らず孔丘はアホだなあと笑いながら見てください。
第一殿で罰するほどの罪はなかったとされた人は、直接第十殿に送られて転生するという設定もあるようです。ただ、仏教が入る前の、単に死者の魂が行き着く場所としての地府の設定も生きているので、死んだらただ地府で暮らしているみたいな設定もあり、そこらへんの整合性はとれていないけれどまあそれが道教です。
第二殿楚江王から、具体的な地獄の責め苦が待っています。

まず、人間界で不忠不義だった者は心臓と目をえぐられます。社畜以外はアウトです。
官吏であったのに不忠な者は心臓をえぐられます。役人の場合は不忠でも心臓だけで許されます。
淫書を好んで見た者は目をえぐられます。淫書っていうのはエロ本です。多分AVやエロ動画も入ります。大部分の男性はアウトです。
闇討ちで人を射て傷つけた者は、万の矢によって心臓を穿たれます。暗箭傷人ですから、相手が死なず怪我しただけでも万倍の報いを受けます。
前段の貨幣偽造や私利私欲で闘争を行った者、こういう人を闇討ちしたやつなど、儒教関係なくやっちゃいかんことをした者への罰もちゃんとあります。
第三殿宋帝王担当の地獄です。

役人の立場にあって汚職を貪った者は手足の爪を剥がされます。これはそれぐらいの目にあえばいいです。
人の墓を掘り起こした者は、石鎚で心臓を穿たれます。
私設娼館を運営した者は銅の蛇に体を擦り付けられます。

こんな感じですね。中国でも日本の吉原のように許可を得た売春宿しか許されなかったわけです。
第四殿五官王担当の地獄です。

毒を売った者、山に放火して焼いた者、自分のために人を傷つけた者は銅の柱を抱えて火で焼かれる刑です。周が紂王の暴虐として流したプロパガンダにある炮烙の刑です。
毒の中には麻薬のたぐいも入ります。
高利貸し、善良な人を騙したり脅したりした者、人の善行を邪魔した者、偽の薬で人を害した者は石臼みたいな道具で体をずっとすりつぶされます。
人がよいことを行うといい子ぶるなよとからんだり、偽善だと貶めて邪魔をするような精神異常者は現代日本にも多いですわ。
第五殿閻魔王担当の地獄です。閻魔王には閻羅王、閻羅天子、森羅王などいくつかの呼び方があります。

司法黄牛は金をとって裁判で刑を軽くしてやると持ちかけるような行為みたいです。もちろんまっとうな弁護士のことではなく、賄賂とか人脈で裏取引をしようとするやつのことですね。
謀事移害はよくわかなないですけど多分はかりごとによって他人に損害を押し付けるようなことだと思います
海洋劫盜は海賊行為。敲詐勒索は立場を利用したり脅したりして他人の財産を奪うこと。
借りた金を返さなかった者、強姦殺人犯、人身売買を行った者。
これらは胸と腹を開かれて心臓やはらわたを引きずり出されます。
閻魔王は優しいとされるからか、現代の価値観から見ても許されざる罪への刑ばかりになっています。
第六殿卞城王担当の地獄です。
親不孝者、女郎遊びや賭け事に人を誘った者は刀の山地獄で責められます。
物価を高くつりあげた者、富を妬み貧しい人を笑った者、他人の財産を奪うために命を奪った者、刃物で人を殺した者は頭と足を斬り落とされます。
持つ者を妬み持たざるものを嘲る。出る杭は打ち、弱いものはいじめて自分は平均の中にあって安堵する。日本にも多いタイプです。

『機動警察パトレイバー』ゆうきまさみ作・小学館コミック刊より
第七殿泰山王担当の地獄です。

浮気をして夫を殺した者、友達の妻を強姦した者、追い剥ぎをした者、貸した金の取り立ては厳しいが貸す金はケチるような者は重秤の刑。これは天秤ばかりの片側に吊るされるやつです。
結婚相手の親に対して不孝の者は蒸籠で蒸されます。
第八殿都市王担当の地獄です。

融資を受けておきながら踏み倒した者、殺人教唆を行ったものは油鼎地獄、つまり男塾名物油風呂の逃げ場がないやつ。
口先では賛成しておきながら内心は否定しているうちの親みたいなやつ。天地につばするような者はのこぎりでぎっこぎっこひかれます。
第九殿平等王担当の地獄。ここは解説の看板を撮影しわすれてたのでYoutubeで映している動画を探しました。
人をそそのかして訴訟を起こさせた者、人の善意を壊すような者は舌を抜かれ頬を穿たれます。
タバコや酒を密造、密売した者は石の車に轢かれてぐちゃあってなります。

こういうのでつぶされます。操縦しているのは「おに」ではなく地獄の獄卒です。ただ日本の「おに」のビジュアルはこういうのが元ネタになっていると思われます。

さて、中には永遠に責め苦を受けるなんていうのもありましたが、一応刑罰を受けて刑期を終えると最後に第十殿に送られて轉輪王によって次の生に転生させられます。
何に転生するかは前世での因により決められます。ここには特に、兄弟が不和だった者、好色な者は禽獣、鶏の類に転生させられるとなっています。
それよりダメだったやつは爬虫類や両生類、虫などに転生します。
明らかな犯罪を行った者が罰せられるのは当然としても、見ていくと現代の価値観では別に罪ではなかろうというものもありますよね。エロ本を見るとか。
現代で誰に忠義を捧げるんだよっていうのもありますし。
儒教の場合は親がどんな毒親だろうが考を尽くせって考えます。それは道教にも流入しているので、親不孝も罪の一つに加えられているけれど、どんな親であれ子は絶対孝行しなければいけないなんていう紀元前の思想は現代では通用しないっていうか必要ないと思います。
犯罪は行っていなくても、そういう儒教的な価値観の罪ひひっかかるっていう人はかなりいるんじゃないですかね?現代人は犯罪者じゃなくてもだいたいみんな地獄行きです。
ここで罪とされていることに100%ひっかからない人ももしかしたらいるかもしれないけど、気持ち悪いからあまりお近づきにはなりたくないです。





