道教の芸術:書

洋の東西を問わず、宗教は芸術と不可分です。宗教に関わる絵画や彫刻、音楽や舞踊などは数多く、宗教的な建築物の多くも芸術と呼べる美しさを持ちます。
道教の信仰でも様々な芸術が生み出されました。道教の廟を訪れれば、そうした芸術を愛でることができるでしょう。
道教にかかわる芸術の中で、まず最初に取り上げたいのは書です。
もちろん書自体は道教と関係なく生み出されたものではあるけれど、しかし道教が生まれて以降、書は道教とも非常に密接な関係をもってきました。
書聖王羲之
書を高度な芸術にまで高めた様々な書家たち、その中でも書聖とまで崇められるのが王羲之です。
王羲之は西晋の太安2年=紀元303年に生まれ、東晋の朝廷に仕えて将軍にも任じられたことがあります。
7歳から書を学び、30代以降多くの書を残しています。
王羲之の書の中でも特に代表作と挙げられる『蘭亭集序』を書いたのは50歳のとき。その2年後、王羲之は病気を理由に官を辞し、かねてより交流があった道士について仙道の修行を行いました。
王羲之が生きた時代は『抱朴子』を著した葛洪が生きた時代と数十年重なっており、当時は外丹が主流であったために、山中にこもって丹薬を錬成して服用していたようです。あるいは水銀を含む危険な薬を服用したせいか、不老長生どころか59歳にして亡くなってしまいました。
王羲之の作品には、存思の経典『黄庭経』を書き写したもの、漢代に実在したともいう仙人の東方朔の絵に寄せた『東方朔画賛』など、王羲之の道教への傾倒ぶりを示すものもあります。
道教に傾倒し、不老長生のために熱心に丹薬を飲んだせいで寿命を短くしたのは皮肉ではありますが、彼のお陰で書の芸術性が数段高まり、道教にかかわる名筆が多数残されたと言っても大げさではないでしょう。
道教廟で見られる書
私が中国に留学していた頃はまだそれほど道教に興味がなく、中国の道教廟にある作品は紹介できません。
これ以降は、台湾の道教廟で見られる書を紹介していこうと思います。書といっても、廟で見られるのはほとんどが紙に書いた書をもとに木や石に彫ったものです。
扁額
道教廟で多く見られる書の代表は扁額です。扁額とは建物の高いところに掲げられている額に入った書のことで、道教廟に限らず歴史的な建物には大抵掲げられています。日本の神社の鳥居や社殿にも、神社の名称などを記した扁額が掲げられています。

まず、宜蘭の媽祖廟・昭応宮に掲げられている「恩周赤子」の扁額。これは清朝の武官・張兆連の揮毫。

同じく昭応宮。左に見える「澤周海甸」は、宜蘭の財務官にあたる通判の丁承禧揮毫、そして中央の「澤覃海宇」は道光帝、「與天同功」は光緒帝から賜ったという歴史的に見ても重要な文化財です。

台南の祀典武廟。「萬世人極」の扁額は咸豊帝の御筆です。

台湾府城隍廟に掲げられている「爾來了」の扁額。「やあ来たね」といった意味ですが、ここには2つの含意があります。まず、善行を積んだ人に対しては「やあよく来たね、ゆっくり参拝しなさい」。そして悪行を積んだ人に対しては「おまえとうとう来たな、覚悟しとけ」という意味です。
城隍爺は悪行を積んだ者が死んだ後、その魂を捕らえて裁く職能を持つ神です。
この言葉は、殭屍の展示で話題になった台南市美術館のアジアの地獄と霊魂展にも用いられています。

数々の道教廟の扁額の中でも特に好きなのが、この大龍峒保安宮正殿に掲げられている「真人所居」の扁額。日本統治時代の昭和5年に寄進されたものです。

台南の全台白龍庵五霊堂。このように神名を記した扁額もよく見られます。

新竹市三峡の宰枢廟。このように線香のすすで黒く染まっているのは、それだけ長く多く参拝者があった=神威が高いことを示すといいます。
対聯
対聯は門の左右にある左右一対の対句です。一般の民家では紙に書かれた対聯を貼り付けるのが一般的。それに対して道教廟の対聯は、門や神像が祀られた神龕(仏教で言う仏壇にあたるもの)の左右の柱に彫りつけられており、その多くは廟に祀られた神を称える内容になっています。

まずわかりやすいものから。
台北の士林夜市内にある福徳廟の対聯です。
福山碧玉源源進
徳水黄金滾滾来
福の山からどんどん碧玉が入ってきて
徳の水から黄金が滾々と湧き出て来る
いささか俗っぽい対聯ですが、台湾では土地公は財神としての職能も付与されていて、ここでは士林夜市の商人たちの守り神として祀られているので多少俗っぽくてもいたしかたなしといったところ。

桃園市の関帝廟・誠聖宮の正殿にある対聯。
誠心輔漢尊神救世崇恩主
聖道弘台大徳安民拝帝君
誠心より漢を輔けた尊神である救世の恩主を崇めたてまつる
聖道を台湾に広め民を安んじる大徳たる帝君を拝したてまつる
てな意味だと思いますが間違っているかもしれません。とにかく関聖帝君を称揚し、崇める内容になっています。

高雄市の道教廟密集地帯左営の白龍庵五福大帝。主祭神五福大帝の神龕にある対聯です。
五福奉旨代天巡狩
大帝神霊陰陽察理
五福は聖旨を奉じて天に代わりて巡狩を行い
大帝の神霊は陰陽により理を察する
五福大帝は、天帝の聖旨、つまり勅命を受けて、地上で瘟神や悪霊を狩る職能を持つ王爺神です。
壁面彫刻の書跡
道教廟の壁面には石に彫った彫刻が奉納されています。その多くは、神や仙人の故事、あるいは西遊記や封神演義、三国演義などの物語の一場面を描いた絵です。しかし、一部の廟では書の石彫が奉納されていることがあります。
特に艋舺青山宮には書の石彫が多いので、書の観賞が好きな人におすすめです。
以下は全て艋舺青山宮に奉納されているものです。











