功過格

良い行いをすれば良い報いとして返ってくる。悪い行いをすれば悪い報いとして返ってくる。

いわゆる因果応報に近い考え方は、元から道教の中にもありました。

それが後に仏教からの影響で強化され「功過格」なるものが作られました。

功過格は、功=善行と過=悪行をポイント制にしたもので、その総合ポイントが死後に適用されるという設定です。

道教の功過思想

善悪の行いはそれに応じて自らに返ってくるという思想は、すでに東漢末の張道陵もしくはその孫の張魯の作とされる『老子想爾注』に見られます。

當積善功 其精神與天通 設欲侵害者 天即救之

善功を積めばその精神は天に通じ、もし侵害しようとする者がいても天が救ってくれる。

積善成功 積精成神 神成仙壽

善を積み功を成せば精気が積まれて神になる。神になれば仙人の長寿を得られる。

善行を積めば天が助けてくれるどころか長寿を得られるとまで言っています。

逆に、

心不專善 無堤封 水必去 行善不積 源不通 水必燥乾

善に専心しなければ堤はなく水は必ず去る。善を積まなければ水源は不通となり水は乾いてしまう。

ここでいう水は長寿をもたらす精気のことで、善行を行わなければその精気を貯めるためのダムがなくなり、どんどん流れて枯れてしまう=長寿にはなれないとしています。

五斗米道ではこの思想を元に信者に過去の行いに対する懺悔を行わせていたといいます。

金丹絶対主義の『抱朴子』にも、このような思想は受け継がれています。

或問曰 為道者當先立功德 審然否 抱朴子答曰 有之 按玉鈐經中篇云 立功為上 除過次之

道を得るためには功徳を立てるのが先なのですかと問われて、抱朴子=葛洪が答えます。按玉鈐經に功を立てるのが上であり、過を除くのはそれに継ぐとある。

まずは善行が優先されるべきだということです。

そして

積善事未滿 雖服仙藥 亦無益也 若不服仙藥 並行好事 雖未便得仙 亦可無卒死之禍矣

善行が足りなければ仙薬を飲んでも益はなく、もし仙薬を飲まなくても善行を積めば、仙人になれなくても突然死を迎えることはない。

このように仙薬の効果を得るには善行を積む必要があるとともに、善行を積むだけで寿命を全うできる説いています。

功過格の成立

南宋のころ周真公なる道士が淨明道という道教の宗派を興しました。淨明道は儒教・仏教・道教の三教合一を掲げており、後に正一道に吸収されて閭山派となっています。

功過格はこの淨明道で作られたといいます。

善悪によって命の長短が決まるという設定はわかりやすかったのか、功過格は淨明道以外にも伝わります。

『道門科範大全集』は唐代の道士杜光庭の選と言われていますが「昊天至尊玉皇上帝」と昊天上帝と玉皇大帝が同一視された神名が見られるし、玄天上帝が真武真君となっているので宋代の作と考えられます。

この中に

錄善惡之二書 舉功過之兩簿

善悪を記録する2書があり、功過を挙げる2冊のノートがある。

と記されています。

また太陽帝君が善悪を司る。木星重華真君が人間界の善悪を掌握する。紫微大帝が人間の善悪を鑑み無私をもって死生を定めるとするなど、より具体的に神々と人間の善悪との関係を設定しました。

社会を円滑にする規範としてではなく、長生という実利をもって善行を勧めるあたりはいかにも中国人といった感じです。

功過格の内容

功過格が考えられた南宋の時代に『太微仙君功過格』が作られました。

これは、功と過にそれぞれポイントを割り振り、ポイント制を提唱した初めての功過格だと考えられています。

『太微仙君功過格』では功格36条、過律39条が作られました。

功格には例えば

以符法針藥救重疾一人為十功 小疾一人為五功 如受病家賄賂則無功

符つまり御札や鍼、薬で重病の人を救うと10ポイント、軽症の人を救うと5ポイント、しかし病人からお金を取るとポイントなしとあります。

また過律39条には

修合毒藥 欲害於人為十過 害人性命為百過 害人不死而病為五十過

毒薬を調合して人を害そうとした時点でマイナス10ポイント、人を殺したらマイナス100ポイント、死なないまでも病気にしたらマイナス50ポイントなどと決められています。

これは一般向けではなく道士の規範として考えられたものです。

その後元代から明代にかけて功過格は流行し、道教を超えて一般人向けの功過格も作られました。

『陰隲録』を著した袁了凡は仏教徒で、雲谷禅師なる仏僧に伝えられたと称する功過格を紹介しています。

それによれば、一人の命を救う、婦女の節を守るなどが100ポイント、一人を死なしたり婦女の節を失わせたりするとマイナス100ポイントなどとなっています。

婦女の節を守るっていうのは不倫とかNTRをしないということだと思います。袁了凡は仏教徒といいつつも進士なので儒教的な思想も入っています。

死後功過格ポイントを基準に裁かれる

台湾の城隍廟に行くとでっかいそろばんが掲げられていることがあります。


台南市全台首邑縣城隍廟

城隍爺には地上の霊的空間を警備して悪霊や瘟神を取り締まるとともに、捕らえた悪霊を裁判にかける役割があります。いわば霊界での大岡越前です。

このそろばんは裁判にかける霊の功過格を計算して判決を言い渡すためにあるといいます。

城隍爺が取り締まるのは基本地上の悪霊なので地獄行きは決まっていると思われますが、過のマイナスポイントが多いほど刑罰も重くなるのでしょう。

そうして捕まった悪霊だけでなく、普通に死んだ人も功過格ポイントによって行き先が決まります。

総合ポイントがマイナスだと地獄に送られるし、プラスだと冥府に送られます。

天界っていうのは神か仙人にしか行けないところなので、プラスポイントでも天国に行くわけではありません。

現在中国の一部都市では、個人にポイントをつけてランクを決め、ランクが低いと社会的に制限を受ける「社会信用システム」が運用されています。これは形を変えた功過格とも言えるものです。

ただ、この「社会信用システム」は天界というフィクションではなく中共という現実の権力者が運用しているため、中共にとって都合が悪い人物 —例えば民主派やウイグル、チベットの宗教界— を弾圧するためにも利用されており、決して手放しで肯定できるものではありません。

とはいえ、これによってあの順法精神のかけらもなかった中国人が法や社会的モラルを守るようになってきたという効果もあるので、ある程度肯定的に評価できる部分もあるでしょう。